米作り88の工程の9、10、11の詳細です。
米作りにおいて、これがないと始まらないのが「種」です。
種と一言で言っても、撒かれる種になるまでいろいろなドラマが実はあります。
今回は種まきの前段階にあたる種籾の塩水選別、温湯消毒、浸種についてお話します。
<こんな方におすすめの記事です(初心者向け)>
- 米作りの工程を知りたい
- 初めての米作りでやり方がわからない
- 塩水選別、温湯消毒、浸種について知りたい
Contents
種籾の塩水選別
ここでは塩水選別とは、また、その方法についてお話します。
聞き慣れない言葉ですよね。
「塩水選別」の読み方は「えんすいせんべつ」です。
よく「えんすいせん」とも言います。
塩水選別とは良い種コンテスト
塩水選別とは文字通り、「塩水で選ぶ」ことを言います。
原理は簡単で、種籾を塩水につけて、浮いたら負け、沈めば勝ち。
中身が軽く、今後稲になるための十分なエネルギーがないものは浮き上がり、ずっしりと重い種は物が浮きやすい塩水の中でも沈むということです。
沈んだ種を集めて、良い種籾を選ぶという原理です。
浮いてしまった種は残念ながらここで脱落になります。
浮いたからといって、発芽しないというものではありませんが、年に1回勝負のこの世界。
少しでも、1粒でも多く強く、健全な種でスタートすることが何よりも大切になります。
スタートダッシュでつまづくとそのまま1年間ずっと引きずったままになってしまうため、ここは心を鬼にして、これから育てる種のコンテストを行います。
毎回やってて思うのですが、浮いた種籾と沈むことができた種籾の今後の人生はここで大きく分かれます。
人間界で言う、入試や就職試験のように、なかなかセチガライ世界だなと感じます。
ただ、僕の場合、浮いてしまった種はかわいそうだし、もったいないので、草堆肥に混ぜて発酵させて、有機肥料になっていただきます。
農薬も、化学肥料も使わないで育てた米が入る、植物性100%の自家製堆肥になります。
めでたく沈むことができた種籾は、次の世代を産むために田んぼで稲へ。
浮いてしまったものは、他の誰かを応援するために堆肥へ。
なので、実際は「勝ち負け」というよりも、きっと一粒一粒、それぞれの役割があり、循環しているだけなんだとも思います。
自家採種では塩水選別が必要
ちなみにこの塩水選の作業は、自分で育てた稲の籾を種にする場合にする作業になります。
これを自家採種と言います。
種を買う場合、最初からかなり良く選別されているため、塩水選別の必要性は大きくありません。
自家採種から収穫した米は、種の購入の証明が必要になるため農協に出荷することができません。
塩水選別のやり方
必要なものは
- 樽
- 水
- 塩
- ざる
塩分濃度は、卵を浮かせて500円玉くらいの面積が水面上に出るくらいの濃度と言われていますが、ここは自分次第のさじ加減です。
比重計で言うと1.13くらいが目安。
中には種籾に負担をかけないようにするため、塩は使わずに水だけでやるという方もいらっしゃいます。
僕の場合は軽く塩を入れますが、ほぼ水です。
比重計を持っていないため数値で示せず申し訳ございません。
今年は生たまごを浮かせてみたいと思います。
動画でわかる塩水選別
塩水選の様子を動画にしました。
種籾の温湯消毒
ここでは温湯消毒についてお話します。
これも聞き慣れない言葉かもしれません。
「温湯消毒」の読み方は「おんとうしょうどく」です。
文字通り、「湯」で「消毒」を行うことを言います。
温湯消毒とは薬を使わない消毒
種籾を薬を使わずに消毒する方法として、温湯消毒をおこなっています。
消毒を行う必要性は
いもち病やばか苗病を防ぐため
通常の慣行栽培ですとここで薬剤を入れた水に浸けて消毒を行います。
この段階から薬漬けになってしまいます。
気になる方はこちらを参照してください。
温湯消毒はこのような薬を使わず「熱」の力を利用して、病気の源を消毒する方法です。
温湯消毒のやり方
60℃のお湯に10分間漬ける
方法としてたったこれだけです。
家で少量を消毒する場合であれば、キッチンで大きめの鍋を使ってできるかもしれません
僕の場合はある程度まとまった量をこなすため、もちつきの時に使うバーナーと、釜を使っておこないます。
ここで意外と難しいのが温度管理です。ポイントはお湯を60℃に保つということ。
温度が高すぎると、熱で種籾自体にダメージを与えてしまいます。
逆に低すぎると、消毒の意味をなさなくなってしまいます。
便宜上、種籾は1袋4kg入れてあるので、60℃のお湯に冷たい種籾を入れたとたん温度が下がってしまいます。
そのため、僕の場合は62℃くらいまで温度を上げた状態で種籾をつけ、必要があれば随時加熱をするという方法でおこなっています。
種籾の浸種
種を水に浸けて発芽の準備をしてもらうことを「浸種」と言います。
「浸種」の読み方は「しんしゅ」です。
浸種とは発芽GO!の合図を与える
浸種の目的は簡単に言うと
- 発芽していいよという合図を与える
- そろって発芽してもらう
この2つが主な目的になります。
種籾は水を吸うと発芽する仕組みになっています。
そのため、まずは「発芽GO!」の合図を感じ取ってもらって、いよいよ発芽するぞという気分になっていただきます。
水に浸け続けると、さらに水分を吸い、「発芽準備」の段階までやっていただくことになります。
浸種のやり方
水を張って種籾を浸けておく
これだけです。
自分の場合は3日目くらいから毎日水を変えるようにしています。
気温が思いのほか上がり、桶の中の水温が上がりすぎると発酵が始まってしまうためです。
1度、酸っぱい匂いがし始めるまで放置してしまったことがあり、発芽がとても心配だったことがあります。(無事に発芽しました)
積算温度が100になるまで浸種
やり始めると、ではどのくらい水に浸けておけばいいの?という疑問になります。
ここでは「積算温度」(せきさんおんど)という考え方が1つの目安になります。
簡単に言うと「日数×温度=100」になるようにするということです。
水温12℃の水だったら 100/12=8.3日
水温13℃の水だったら 100/13=7.7日
といった具合です。
ここで、極端に冷たい5℃以下の水に浸けてしまうと発芽準備が進まないと言われていますが、千葉県の井戸水だとそこまで水温が下がらないので、確かめたことはありません。
千葉県の3月中旬の井戸水は12℃でした。
そのため、8日間は浸種をおこない、9日目に取り出すようにしています。
この作業はシビアではないため、1日多く浸けたからといって全滅してしまうようなものではありません。
まとめ
以上を簡単にまとめると
- 塩水選別は塩で良い種籾を選ぶコンテスト
- 温湯消毒は薬を使わない消毒方法
- 浸水は発芽GO!の合図出し
ここまで来てやっと種まき準備が完了です。
秋の稲刈り時期から、種籾達はいくつもの試練を乗り越えて、生き残った者、選ばれし者たちだけが勝ち残れる厳しい世界。
こうして生き残った者が代々とお米をつないできたと思うととても感慨深いものがあります。
あの一粒が何倍にもなるのですから、種から見ていると田んぼは本当に感動します。
もし田んぼをこれから始めたいという方がいらっしゃいましたら、2年目はぜひ、「自分の種」から初めてみてくださいね!